3.機械仕掛けの紙(脚本)
〇寂れた一室
席口 菊世「猛進は盲信と変わらな〜い!!」
〇寂れた一室
比軒 又一朗「無料相談を、どういった経緯で?」
席口 菊世「先生がいるんだけど、」
鍔起 春「席口くんの作品は浅すぎますね、人生経験を積んだ方がよろしい」
席口 菊世「なんて言うもんだから、取材がてら色んな人の悩みを解決できたらいいなと」
比軒 又一朗「どんな気持ちでしたか? その時は」
席口 菊世「まあ、ショックだよ。経験を身に付けるまで顔を見せるなとか言われて。基準が曖昧すぎる」
比軒 又一朗「それで相談室に改造したんですか、自宅まるごと・・・?」
席口 菊世「ああ。自宅っていうか、賃貸だけど」
比軒 又一朗「まずくないですか?」
席口 菊世「不味いよ。恩のある人で、安く貸してもらってるから」
席口 菊世「──って、もういいだろう?」
〇寂れた一室
席口 菊世「席口菊世の偏狂そうだん室!! 機械仕掛けの紙!!」
席口 菊世「どうして相談を聞く側の俺が質問されているんだい」
比軒 又一朗「だって──相談する価値があるかわからないでしょ、試しておかないと」
席口 菊世「なにか偉そうに聞こえるな」
比軒 又一朗「ご出身は? 失礼でなければ」
席口 菊世「出身はT京都」
比軒 又一朗「最終学歴に決まってるでしょう!? 出身と言ったら!」
席口 菊世「ちょっと失礼だね」
比軒 又一朗「学歴なさそうですね もういいです、入りましょう本題に」
〇寂れた一室
席口 菊世「大学受験、落ちたっぽいんだ・・・」
比軒 又一朗「見込みです! 全落ちの!」
席口 菊世「あかるっ 残念だったね」
比軒 又一朗「G判定の所ばかり受けてますから神を目指して」
席口 菊世(模試ってF判定までじゃなかったっけ ん、神!?)
比軒 又一朗「楽しみです、落ちたら浪人生活のために部屋をリフォームすることになっていて」
比軒 又一朗「言われたんです、食事も好きなものを頼んでいいって!」
席口 菊世「ご褒美みたいになってるけど」
比軒 又一朗「そこで、再確認したいんですよね 受験の意味について」
席口 菊世「平凡」
席口 菊世「特殊な状況の割に、すごく一般的!! こんだけ引っ張っといてそれ?」
比軒 又一朗「辛辣ですね人生の岐路で悩んでいる人間に対して」
席口 菊世「申し訳ない・・・」
比軒 又一朗「おかしいじゃないですか、塗りつぶした場所が合ってるかどうかだけで人生が変わっちゃうなんて」
比軒 又一朗「おかしいですよマークシート」
席口 菊世「ぬるっと本題が始まった」
比軒 又一朗「1人の人間を左右するなんて。たった1度のテストで」
席口 菊世「本番だけで決まることが受験の意味をわからなくしているということかな?」
比軒 又一朗「まあいいでしょう」
席口 菊世「たしかにあっけなくて嘘みたいだけど、”平等性”が重要なのかもしれない」
比軒 又一朗「問題への苦手意識が他の受験生よりも重くのしかかりましたけど。G判定の僕には」
席口 菊世「問題にしたって、偶然前の日に確認した範囲が出たらその人にだけ有利だけど、それは全員に等しくありえる」
比軒 又一朗「さらにテキトーに決まってる気がしますよ、推薦入試なんかは」
席口 菊世「受験生を同じ条件で測ることが大事だから、マークシートも、記述も、面接も、理不尽に感じる人はいるだろうけど、正当かな」
比軒 又一朗「手先ですか? 受験業界の」
席口 菊世「もし手先ならこんなに嫌そうに相談乗らないね」
〇寂れた一室
比軒 又一朗「平等なことはわかりました。でもなぜあんなにあるのでしょうねえ、権威が」
席口 菊世「キミ出身といえば学歴とか言ってた割にほんとに迷ってるね」
比軒 又一朗「浪人、ですから」
席口 菊世「反応しづらいよ」
席口 菊世「多くの人がなんだかんだ価値を認めてるのかな。努力がある程度結果に結びつきやすいから」
比軒 又一朗「こう言いたいのですか? 学歴も身分も失う僕は多くの人から価値を認められないと、怠け者だと」
席口 菊世「えぇ・・・」
席口 菊世「勉強ができないのが悪いって話じゃないからね。受験で合格したり学校を卒業するくらい勉強ができるのがプラスだって話だよ」
比軒 又一朗「言い回しがくどいですねいちいち」
席口 菊世「勉強ができるのは、たとえば、走るのが速いようなものだよ」
比軒 又一朗「なぜ知っているんですか、僕の足が遅いと」
席口 菊世「走るのが速いと、狩りの成功率が高い、物を運ぶのが速い、サッカーが強い、などのように色々なことにプラスで、発展性があるよね」
比軒 又一朗「便利ということですか、勉強の知識が」
席口 菊世「うん。知識や、思考力、理解力もだね 社会的動物として、他の人と分かり合えるとお互いに何かと有利だよね」
比軒 又一朗「では猛進しますよ! 今年のことはスッキリ忘れて そして成る。神に」
〇寂れた一室
席口 菊世「猛進は盲信と変わらな〜い!!」
比軒 又一朗「つもりですか? うまいこと言った・・・」
席口 菊世「何のために受験するの?」
比軒 又一朗「え?」
席口 菊世「いや即答できなくていい。けど、なんだか結果に縛られすぎている気がして危険だよ」
比軒 又一朗「いけないですか? 神の高みから人を見下ろす結果を得るために受験しちゃ」
席口 菊世「いけない──とは言わないけど、今年のことは忘れるというのは、受験の信条に反していないかい」
比軒 又一朗「結果が変わりますか? 心情で」
席口 菊世「信条だよ 受験は一大事だけど、最後の試練に過ぎない。重要なのは過程となる勉強の方だよね」
比軒 又一朗「勉強も意味がないと思ったんですよ、結果が出なくちゃ」
席口 菊世「これからも人生は続く。受験よりも大変なことがある。だから、受験の結果すら過程にしていくのが信条じゃないかと思うんだよ」
比軒 又一朗「??? 結果が過程? 過程の始まりである家庭に問題があると? すべてが過程だと仮定すると」
席口 菊世「!?」
比軒 又一朗「?」
席口 菊世「過程が難しいなら、かて、糧にしよう。それまでの全部も受験という結果も、人生は勉強だというのが受験の信条じゃない?」
比軒 又一朗「だから?」
席口 菊世「これまでの努力は無駄にはならない、忘れ去って無駄にしないでと言いたいんだ」
比軒 又一朗「よかったということですか? 自分なりに頑張って」
席口 菊世「キミ次第で良くなるよ──」
プルルルル・・・
比軒 又一朗「ママ! どうしたの」
席口 菊世(躊躇なく出やがった)
比軒 又一朗「追加合格!? 滑り止めのあそこに? ウワーイありがとう!!」
比軒 又一朗「受かってました! こういうことですか〜!! 努力は無駄にならないって」
席口 菊世「ちがっ・・・いや、とにかくおめでとう」
比軒 又一朗「よかったー! 1年間ぜんぶ神になった時の予定を立てるのに使って いやあ、勉強になりました。おかげさまで」
席口 菊世「さすがに本末転倒だよ! ずっと倒置法で喋ってるし!!」
毎度のことながら、面白さの中に大切な事をスッと話に入れるのが上手なので読んでいて楽しいし考えさせられます!
僕も結果だけを求めがちなので、「過程を糧に」を意識したいです。