春風に運ばれて

白貝ルカ

春の馬鹿野郎(脚本)

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〇教室の教壇
  新学期。無事に高校二年生に進学して、クラスの入れ替えが行われた。
  親しい朋美とも同じクラスになれたし、この一年も楽しい青春を謳歌できそうな予感。
  私は少し開けた窓から入り込む春の陽気に目を細めて、そして、くしゃみをした。
柊渚「誰だよ。花粉症なのに窓を開けたのは」

〇教室
担任教師「はい。注目。春だから皆さんに朗報です。転校生がやって来ました」
  クラス中の目が教室の扉に向けられる。
柊渚「えっ?」
  現れた転校生に誰しもが息を飲んだ。
  整った顔、短い髪、そして、
柊渚「イケメン」
天月海斗「最近この街に引っ越して着ました天月海斗です。 前はドイツに住んでいたんですが、大学進学は日本で考えていて、戻ってきました」
天月海斗「一人暮らしで、得意教科は英語。 部活動はサッカー部に入ろうと思っています。よろしくお願いします」
  天月君が頭を下げる。
担任教師「どうしたの。みんな、拍手だよ」
  教師に促されてぽろぽろと拍手が始まり、大きな喝采に変わった。
  私の心臓はドキドキ脈を打っていた。
  そこに春風が運ぶ花粉が私の鼻腔を襲って、盛大なくしゃみを吐き出した。
柊渚「やば、テッシュ」
  慌てて鞄の中を探していると、檀上の天月君と目があった。
  彼は笑っていた。
  私は思わず目を逸らしたが、顔が熱い。
  それが私と天月君との出会いだった。

〇教室の教壇
女子生徒A「今日も部活?大変だね」
天月海斗「別に大変じゃないよ。いつものことだから」
女子生徒B「ねぇ、最近駅前にカフェが出来たんだって天月君知ってる?」
天月海斗「いや、知らない」
女子生徒B「だったら、今度一緒に行こうよ」
女子生徒A「ああ、ずるい。私と行こう」
女子生徒B「私が最初に誘ったんだから」
天月海斗「まあまあ、落ち着いて」
  相も変わらず人気者な天月君。休み時間はいつも女子が群がっている。
  でも、私はこうして遠くからいつも見ているだけだ。
日下部朋美「相変わらず凄い人気ね。隣のクラスの子もいるじゃん」
  朋美が頬杖をついて天月君に取り巻きを見ていた。
日下部朋美「あんたも、さっさと諦めなよ。 勝ち目ゼロ。てか、ライバル多すぎ」
柊渚「別に狙ってないよ」
日下部朋美「嘘つけよ。あんた気付けばいっつも天月のこと見てるじゃない。 私が気づいてないとでも思ったの」
  私は何も言えずに俯く。
日下部朋美「はぁ、だったらさっさとアタックしなさいよ。遠くから見てるだけじゃ何も起きないわよ」
柊渚「うん」
女子生徒B「天月君って一人暮らしなんだよね?高校生で一人暮らしってすごいよね」
天月海斗「いや、別に凄くないよ」
女子生徒C「はいはい!ご飯とかっていつもどうしてるの?」
天月海斗「自炊が基本かな」
女子生徒C「すごーい」
  なんて、天月君の一番を狙った女子たちの攻防が聞こえる。
女子生徒B「得意料理は何?」
女子生徒C「今度食べてみたい」
女子生徒A「私の手料理も食べてみる?」
天月海斗「質問が多い。 だったら、今度ウチでパーティでもしよう」
女子生徒A「ほんと、するする。パーティ♪」
女子生徒C「腹減った」
日下部朋美「渚。スカートの後ろの裾ほつれてる」
柊渚「え、嘘?」
日下部朋美「ほれ、見せてみ」
  朋美に後ろを向けると、「さあ、行ってこい」と耳元で呟かれ、蹴り飛ばされた。
  私は短い悲鳴を上げて床に膝をついた。
柊渚「いたぁー」
天月海斗「ねえ、大丈夫?」
  顔を上げると天月君が私手を伸ばしていた。
柊渚「え、あ、えっと、大丈夫です」
天月海斗「それは良かった」
  天月君は私に怪我がなかったことを喜んでいるようだった。
柊渚「あのー」
天月海斗「何?」
柊渚「私もパーティ、行ってもいいですか」
天月海斗「是非とも」
  その声に私のハートは蕩け始めていた。

〇住宅街
  私はスマートフォンを片手に学校近くの住宅地を右往左往していた。
  天月君の住所は間違いなくこの辺りを差している。
  でも、見つからない。
  もうすぐ11時の集合時間になってしまう。
男A「もしかして、迷子?」
柊渚「えっと、はい。ちょっと道が」
  男の人に声を掛けられて振り返るとそこには天月君が立っていた。
天月海斗「よっ、柊さんを遠くから見てたけど、不審者過ぎ。声を掛けるのためらっちゃったよ」
天月海斗「俺のマンションあっちだから、ほら行こうぜ」
  両手には食材がパンパンに入った袋を引っ提げている。
柊渚「一個持とうか?」
天月海斗「良いよ。こういうのは男子の仕事」
  そう言って彼は私だけにウインクした。

〇おしゃれなリビング
  彼の部屋は学生が住むには綺麗すぎるマンションだった。
  一人暮らしには広いリビング。どこも彼処も綺麗に掃除されている。
天月海斗「さぁ、準備しようか?」
柊渚「えっと、まだ私しか来てないけど」
  11時も少し過ぎたというのに彼の部屋には私しかいない。
天月海斗「そりゃそうだ。他の人は12時集合にしてるから」
柊渚「えっ、何で」
天月海斗「予め仕込みをしておけば、早くパーティを始められるだろ。 柊さんは適任だと思って」
柊渚「適任?」
天月海斗「柊さんって毎日お弁当自分で作ってるんでしょ。毎日美味しそうだなって見てた」
柊渚「えっ」
  天月君が毎日私のことを見ていた。それだけで心拍が早まった。
柊渚「そ、それで今日は何作るの? 私何も知らないんだけど」
天月海斗「ん?ああ、今日は餃子パーティだよ。 まずはそうだな。焼き餃子の準備をしよう」
天月海斗「や・き・ぎょ・う・ざ」
  天月君の言葉が蕩け出す。
  ああ、私も包まれた。餃子のように優しく貴方に包まれたい。
柊渚「あ、後は」
天月海斗「す・い・ぎょ・う・ざ」
  ああ、もっちりとした私の頬を貴方が抓って、「ここにも水餃子見つけた。たべちゃお」なんて言われたい。
柊渚「ほ、他には?」
  もう私は貴方の魅力にやられてグロッキー。
  もう直ぐ私はTKO
天月海斗「あ・げ・ぎょ・う・ざ」
  いやーん。私も熱く激しく天月君に、天月君に。
柊渚「ハックシュン!!」

〇女の子の一人部屋
柊渚「春の馬鹿野郎」

コメント

  • 悪くない出来映えでした

  • ヒロインの妄想における語彙力が凄くかったです!ヒロインちゃんの妄想が現実になる日が来るのでしょうか?面白かったです!素敵な物語ありがとうございました!

  • 個人的にすごく好きなお話でした。
    餃子のくだりから、私のお腹も減りました。

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