祈りの日々─家族の闘病記─

草加奈呼

エピソード15 ただいま。(脚本)

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草加奈呼

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〇病室のベッド
  病室へそっと入ると、小夜がタオルケットを跳ね退けて眠っていた。
藤元勝之(良かった、寝ている・・・)
藤元勝之(美夜は・・・トイレかな・・・?)
藤元勝之(まさか、トイレで倒れているなんて ことは・・・)
藤元勝之(様子を見にいこうか・・・?)
藤元美夜「あなた・・・」
藤元勝之「ああ、美夜・・・!」
藤元勝之「小夜は俺が見てるから、少し横になれ」
藤元美夜「寝ても吐き気がするの」
藤元美夜「それに、どうせまたすぐにトイレに 行くことになるし・・・」
藤元勝之(2ヵ月も続いた過度の心配、過度の不眠、 こうなって当然だ・・・)
藤元勝之(悪い病気でなければ良いが・・・)
  妻は、当直の医者に診てもらうことになった。
藤元勝之「ひとりで行けるか?」
藤元美夜「なんとか・・・」
藤元勝之(ああ、心配だ・・・)
藤元勝之(今度は、美夜が入院に ならなければいいが・・・)
藤元勝之「・・・・・・」
藤元勝之(遅いな。おそらく、 点滴でもしてもらっているんだろう・・・)
小夜「まま・・・」
藤元勝之「起きたのか」
小夜「ミルクほしい」
藤元勝之「えぇ?」
  ミルクを作って与えてやると、しばらくして小夜は再び眠った。
藤元勝之(里志も心配だな・・・)
藤元勝之(両親ともいない夜なんて、 里志にとっては初めてだ・・・)
藤元勝之(ふみ江伯母さんにお願いしたとはいえ、 心細いだろうな・・・)
小夜「おしっこ」
藤元勝之(また起きた)
  おまるで用を足し、再び眠らせた。
藤元勝之「ふー・・・」
小夜「わぁぁ〜 まま〜」
藤元勝之「どうした? 怖い夢でも見たのか?」
藤元勝之「よしよし」
小夜「・・・・・・」
藤元勝之(やっと寝てくれた・・・)
藤元勝之(美夜は・・・まだかな・・・)
藤元美夜「ただいま・・・」
藤元勝之「少しは良くなったか・・・?」
藤元美夜「あまり変わらないみたい・・・」
藤元美夜「先生が言うには、過労で弱ってる体に、 強力な風邪薬を飲んだから」
藤元美夜「腸が破れて出血したんだって」
藤元勝之「そんなこともあるのか・・・」
藤元勝之「退院の日を、1日遅らせてもらうか?」
藤元美夜「私は悪ければ通院するから」
藤元美夜「それよりも、 小夜を早く退院させてあげたいわ」
藤元勝之「そうか・・・」
藤元勝之(しかし1日遅らせても、今の美夜が 小夜の面倒を見るのは難しいか・・・)
藤元勝之「5時か・・・ 外が明るくなってきたな・・・」

〇病室のベッド
  6時を過ぎると、他の患者たちも起き始めた。
「朝食の時間です」
  小夜は、相変わらず少食だったが・・・
藤元勝之(もう、退院なんだ。 無理して食べさせる必要はない・・・)
藤元勝之(家に帰ったら、 好きなものを食べればいいさ・・・)
藤元勝之「退院の準備をしよう。 荷物は、車に積んでくるよ」
小夜「ぱーぱー」
藤元勝之「小夜、もう少しで退院できるからな」
  私は、荷物をまとめて車と病室を3往復ほどした。
藤元美夜「11時から、最後のマッサージがあるわ」
藤元勝之「辛かったら、まだ横になっていても・・・」
藤元美夜「少し良くなったみたい。 点滴が効いてきたのかしら」
藤元勝之(そういえば、 トイレに行く回数が減ったな・・・?)

〇病院の診察室
  小夜は、マッサージをしている。
小夜「もうおわり」
医者「もう少し頑張って〜」
看護師「痛くないからね〜」
小夜「ジュースほしい」
藤元勝之「ジュースが欲しいのか?」
藤元美夜「そうやって言えば、マッサージを終えて」
藤元美夜「ジュースを買いに連れて行って もらえると思ってるの」
藤元勝之「よし、最後のご褒美に パパが買ってきてやろう」
  ジュースを持たせてやると、少しご機嫌になったようだ。しかし──
小夜「もうおわり もうおわり」
看護師「もう少しだからね〜」

〇病室のベッド
  昼食を食べて、ようやく退院の時間になった。
藤元勝之「美夜、大丈夫か?」
藤元美夜「なんとか・・・」
藤元勝之「小夜は、俺が抱いていこう」

〇エレベーターの前
女の子「小夜ちゃん、通院になっても、時々 遊びに来てね」
女の子「ばいば〜い」
小夜「ばいばい おねえちゃん」
藤元美夜「小夜と遊んでくれてありがとう」
藤元勝之「ありがとう」

〇総合病院
小児科部長「小夜ちゃん、良かったねぇ」
藤元勝之「先生! ありがとうございました」
藤元美夜「お世話になりました」
藤元勝之(香西先生は・・・診察中かな・・・?)
小児科部長「しばらくは、週に1回ずつ 通院してもらわなければなりません」
小児科部長「出来ればマッサージだけは毎日でも 受けた方がいいですよ」
小児科部長「これからも頑張って下さい」
看護師「小夜ちゃん、またね」
看護師「バイバイ」
小夜「ばいばい」
藤元勝之(小夜も嬉しそうだ・・・)
藤元勝之「では、失礼します」

〇車内
  私は、この日をどれ程待ち望んでいたことだろうか。
小夜「ダンプ、バス、じんしゃ・・・」
  小夜は車の中で、元気にはしゃいだ。
  知能の方も大丈夫なようであった。
  今までのことを覚えていた。
  忘れなかったのだ。
  それは、入院中に絵本などを見せ、忘れさせないようにしていた、妻の努力の成果だろう。

〇車内
藤元勝之(そう言えば、心なしか車外の風景が 綺麗に見えるな・・・)
藤元勝之(人の心というものは、単純なものだな)
藤元勝之(まるで、忘れていたものを 取り戻したような、爽快な気分だ)
「ままー」
「うん・・・うん・・・なぁに?」
藤元勝之(美夜は、まだ辛そうだな)
藤元勝之(喜んでばかりもいられない。美夜が完治 するまでは、これまでの延長戦だ)
藤元勝之(美夜と小夜は、 しばらく実家に帰ってもらって・・・)
藤元勝之(まだ、仕事も大変だな・・・)
藤元勝之(美夜の実家は近いから、それだけが 幸いだな・・・)

〇狭い畳部屋
藤元勝之「ただいま・・・」
里志「あーっ、お父さん!」
里志「僕も小夜を迎えに行きたかったのに!」
藤元勝之「ごめんごめん」
藤元美夜「ほら、小夜・・・。 おうちについたよ」
小夜「おにいちゃん」
里志「小夜、おかえり!!」
小夜「おかえり」
藤元美夜「小夜、帰ってきた時はね・・・」
里志「ただいま、だよ!」
小夜「ただいま」
伯母「小夜、良かったねぇ」
藤元勝之「伯母さん、里志を見てくれてて ありがとう」
藤元勝之「実は、美夜の体調がまだ良くないんだ。 これから、美夜の実家へ行ってくる」
伯母「そうかい、里志はどうするんかね?」
藤元勝之「里志は連れて行くよ」
藤元勝之「じゃあ、またあとで」
伯母「気をつけてなぁ」

〇昔ながらの一軒家
美夜の母「小夜〜、退院おめでとう」
小夜「ばあちゃん」
藤元美夜「お父さんお母さん、ごめんね。 しばらくお世話になります」
美夜の母「あんたも大変だったねぇ」
美夜の母「しっかり休んで、 しっかり治していきなさい」
藤元美夜「うん・・・」
里志「あ〜、今日こそお母さんと一緒に 寝られると思ってたのに・・・」
藤元勝之「お母さんは、すぐ良くなるさ」
藤元勝之「そうしたら、また4人でご飯を食べて、 テレビを見て、楽しい時間を過ごそう」
里志「・・・うん!」

〇空
  髄膜炎は、眠っているとしか思えないような状態になり、そのまま死なせてしまうという、判断の難しい病気だ。
  私は、そういった症状を見逃すことのないよう、顔を合わせた人たちに訴えてきた。
  もしも貴方の子供が朝起きて来ない時は、まず髄膜炎ではないかと疑ってほしい。

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コメント

  • 完結お疲れ様でした。無事に存命したことはわかっているのに、ずっと心配でなりませんでした。
    小夜もそうですし、何よりお父さんやお母さんが体調不良に多忙過ぎて。自身の子に何かあって、このお父さんのように振る舞えるのかな、なんてことも考えたりさせられる手記でした。
    帰ってきたときにお帰りって、やっぱり子供達はみんな言うんですね。
    ご無事でよかったです。素敵なお話でした。

  • 本当に心に響く闘病記で、何度も涙してしまいました。お父様の視点だからこそ見える、家族、病院、育児、親族付き合い、など様々な要素がどれも胸に響きました。
    完結お疲れ様でした。

  • Twitterで完結とお見かけし、後れ馳せながら一気に読ませて頂きました
    お父様の手記が原作との事ですが、家族の息まで聴こえるような生々しさや、一つの病気が治ったらハッピーエンド…ともいかない未来への微かな不安感など、苦しい程のリアルが伝わりました
    その手記を受け取られたという事は、その時にお父様は全てを乗り越えられたのかもなぁ…などと、物語の外での永い祈りの日々を感じます
    完結お疲れ様でした😭

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