第28話 蘭の決意! W・オーキッド誕生①(脚本)
〇教室
校庭にしとしとと降り注ぐ六月の雨。
蘭は頬杖をつきながら、物憂(う)げに窓の外を眺めていた。
〇道場
少女「蘭ちゃん、全国大会で優勝なんてすごーい!」
武笠蘭「あたし、お父さんみたいに強くなるんだ!」
少年「女が男みたいに強くなれるわけねーじゃん。バカじゃね?」
武笠蘭「なれるもん!」
少年「なれねーよ」
少年は語気を荒げ、蘭の肩を強く突いた。
武笠蘭「何するの!」
思わず少年を殴り飛ばす。
少年は床に倒れてたまらず泣き始めた。
武笠剛「どうした!?」
武笠蘭「お父さん!」
少年「せんせー、蘭がぶったー」
武笠剛「蘭が?」
武笠蘭「お父さん、だってね・・・」
武笠剛「理由は何であれ、暴力で相手をねじ伏せてはいけない。まず謝りなさい」
武笠蘭「・・・お父さん?」
武笠剛「謝るんだ、蘭!」
武笠蘭「!」
父・剛(つよし)の気迫に押されて、蘭が後ずさる。
殴られた少年は、剛の背後で蘭に向かって舌を出した。
武笠蘭「お父さん・・・なんでわかってくれないの?」
武笠蘭「あたし悪くない!」
蘭は悔しさに唇を噛みしめて、道場から飛び出した。
〇公園の入り口
どしゃぶりの雨の中を傘も差さずに歩く。
その頬を雨か涙か──滴が流れ落ちた。
武笠蘭「・・・・・・」
〇黒
「蘭ちゃん?」
蘭の頭上に、赤い傘がさし向けられる。
〇公園の入り口
朝陽林檎「やっぱり蘭ちゃんだ。どうしたの?」
武笠蘭「・・・林檎」
〇街中の公園
武笠蘭「みんな笑うの。あたしは女だから、お父さんみたいに強くなれるわけないって・・・」
朝陽林檎「そんなことないよ。 蘭ちゃんならきっとなれるよ!」
武笠蘭「そ、そうかな?」
朝陽林檎「うん。林檎、強くてかっこいい蘭ちゃんが大好き!」
武笠蘭「! ・・・大好き?」
朝陽林檎「大好き!」
武笠蘭「あ、あたしも・・・林檎が大好き」
朝陽林檎「えへへ。一緒だね!」
武笠蘭「うん。一緒だね・・・」
〇教室
武笠蘭「・・・・・・」
林檎を横目で見ると、彼女は机の下でコソコソとスマホを操作している。
武笠蘭(またやってる。 林檎、誰とメールしてるの・・・?)
〇大きな木のある校舎
〇教室
放課後。帰り支度を終えた蘭は、林檎の席に向かった。
林檎に声をかけようとして、彼女のスマホの画面が目に入る。
武笠蘭「・・・あいてんし? 何それ?」
朝陽林檎「わっ!? なんだ、蘭か~」
武笠蘭「ねえ、あいてんしって・・・」
朝陽林檎「わ~!」
武笠蘭「??」
朝陽林檎「えっと・・・ごめん。 用事があるから先に帰るね!」
武笠蘭「あっ・・・待って!」
武笠蘭「最近の林檎、なんか変だよ。 あたしに隠し事してない?」
朝陽林檎「そ、そんなことないけど・・・」
武笠蘭「話してよ。あたしと林檎の仲でしょ?」
朝陽林檎「う・・・」
武笠蘭「林檎!」
朝陽林檎「とにかくごめん! 急いでるから!」
武笠蘭「林檎・・・」
女子生徒「林檎ってばあんなに急いで。 もしかして彼氏でも出来たのかなー?」
武笠蘭「彼氏? まさか。それはない」
女子生徒「どうして?」
武笠蘭「だって林檎にはあたしがいるから」
女子生徒「? でも蘭は女の子じゃない」
武笠蘭「そ、それは・・・そうだけど・・・」
女子生徒「それより見た? ショウ様のインステ!」
武笠蘭「ショウ?」
女子生徒「FRENZYのドラムの布瀬川ショウ。 最近インステ始めて、超カッコイイの!」
女子生徒が見せた画面には、上半身裸で筋トレするショウが映っている。
武笠蘭「うわ~・・・」
女子生徒「蘭はFRENZYの中だったら誰と付き合いたい?」
武笠蘭「誰とって・・・」
武笠蘭「・・・あたしはどれも嫌。男なんてバカでガサツで、どーしよーもない生き物だ」
女子生徒「あはは! でもいつかは彼氏をつくって、その人と結婚するんでしょ?」
武笠蘭「えっ?」
女子生徒「だってそれが普通だもん」
武笠蘭「! ・・・普通・・・?」
〇まっすぐの廊下
武笠蘭(普通、か・・・あたしは普通じゃない?)
武笠蘭(でも、それでもあたしは林檎が・・・)
ため息をついて窓の外を見ると、校門前で傘をさす林檎の姿が目に入る。
林檎の隣には、バイクに跨(またが)った男性がいた。
武笠蘭(林檎・・・急いでるって、あの男と会うためだったの?)
〇大きな木のある校舎
朝陽林檎「もー! 靴下が泥だらけになっちゃったじゃないですか!」
黒岩優斗「悪い悪い。水たまりがあるなんて気付かなかったんだ。靴下代、千円でいいか?」
朝陽林檎「はぁ!?」
黒岩優斗「足りない? だったら二千円やるよ」
朝陽林檎「・・・・・・」
黒岩優斗「まだ足りない? 最近の女子高生の靴下って高いんだな」
朝陽林檎「お金の話じゃなーーーい!」
〇ライブハウスのステージ
FRENZYのメンバーは、スタジオで歌の収録をしていた。
トウヤの歌が始まると、観客たちが一斉に歓声をあげる。
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