指先に魔法はいらない

星月 光

chapter09 玻璃の欠片(後編)(脚本)

指先に魔法はいらない

星月 光

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〇華やかな裏庭
ジュリアン・ダイン(あの女、なにを考えてる!?)
ジュリアン・ダイン(こんなときに国内旅行など)
ジュリアン・ダイン(おとなしく異国に嫁げばいいものを!)
ジュリアン・ダイン「・・・まさか」
ジュリアン・ダイン(兄上に会うために サントエレンへ行くつもりか?)
ジュリアン・ダイン(魔王からの返事がないのは きっと、兄上が生きているからだ)
ジュリアン・ダイン(父上や陛下がそれを知ったら・・・!)
ジュリアン・ダイン「急がないと!」

〇黒背景
クレメント・ダイン「恐れ多くも王女殿下に横恋慕とは」
クレメント・ダイン「ダイン家の面汚しめ!」
  父上!
  話を聞いてください!
ジュリアン・ダイン「嘘ですよね、兄上」
ジュリアン・ダイン「兄上がそんなことをするなんて なにかの間違いに決まってます!」
執事長フランク・カッター「スペルロイドでありながら おぞましい性衝動を覚えるとは」
執事長フランク・カッター「他の個体を養子に選んだほうが よろしかったかもしれませんな」
  ボクは・・・ボクは!
  本当になにも知らない・・・!

〇堤防
ピオノノ・ダイン「はあ、はあ・・・っ」
ピオノノ・ダイン「・・・無実を証明できなければ」
ピオノノ・ダイン「一生、この記憶に苛まされるんだ」
ピオノノ・ダイン「心を落ち着けないと・・・」
ピオノノ・ダイン「・・・はあ」
ピオノノ・ダイン「もう一度集中して──」
ピオノノ・ダイン「・・・ん?」

〇おしゃれな居間
アストリッド「サフィ、夕飯のことだけど」
アストリッド(人の気配がない?)
アストリッド「サフィ、いないの?」
アストリッド(魔法陣の反応はない)
アストリッド(侵入者に連れ去られたわけじゃない)
アストリッド「・・・チッ」

〇海辺
サフィ「・・・キレイ」
サフィ(あの子が見たかったの ・・・この海なのかな)
ピオノノ・ダイン「サフィ!」
サフィ「・・・ピオ」
ピオノノ・ダイン「1人なのか!?」
ピオノノ・ダイン「この前みたいなことが あったらどうするんだ!」
サフィ「・・・ごめんなさい」
ピオノノ・ダイン「ごめん、大声出して」
ピオノノ・ダイン「なにかあったのか?」
サフィ「・・・夢を見たんです」
サフィ「病気の女の子の夢」

〇田舎の病院の病室
サフィ「お母さんと先生がいて」
サフィ「その子はサフィレットって呼ばれてた」
???「青い海、白い砂浜、波の音」
???「サフィも行ってみたいなあ」

〇海辺
ピオノノ・ダイン「サフィの記憶?」
サフィ「わかんないです」
サフィ「あの女の子がほんとにあたしなのか」
サフィ「お母さんと先生はどうしてるのか」
サフィ「どうしてあたしがこの島に来たのかも」
サフィ「なにも・・・」
サフィ「あの子、海を見たがってた」
サフィ「だから・・・海を見れば なにか思い出すかもって」
サフィ「けど・・・」
ピオノノ・ダイン「思い出せなかったのか」
サフィ「・・・あたしね」
サフィ「記憶、なくてもいいって思ってたんです」
サフィ「あのとき──」

〇島の家
サフィ「ピオがあたしを守ってくれて」
サフィ「アストリッドが魔法で助けてくれて」

〇おしゃれな居間
サフィ「2人と一緒で、すごく楽しかったから」
サフィ「昔のこと、なにも思い出せなくても」
サフィ「あたしには今があればいいって」

〇海辺
サフィ「でも、あの女の子が ほんとにあたしだったら」
サフィ「お母さんと先生、きっと心配してるし」
サフィ「あたしが忘れちゃってたら きっと、悲しむだろうなって」
サフィ「そう思ったら・・・」
ピオノノ・ダイン「記憶を取り戻すこと」
ピオノノ・ダイン「それって、正しいことなのかな」

〇流れる血
ピオノノ・ダイン「普段は思い出さないようにしていても」
ピオノノ・ダイン「ふとした瞬間に傷口が開く」
ピオノノ・ダイン「どれだけ苦しめば治るのか 自分でもわからない」
ピオノノ・ダイン「・・・そんな記憶だったら 忘れてしまってるほうがいい」

〇海辺
サフィ「ピオ・・・」
ピオノノ・ダイン「・・・ごめん」
ピオノノ・ダイン「サフィの気持ちを踏みにじりたくない」
ピオノノ・ダイン「記憶を取り戻したいなら力になりたい」
ピオノノ・ダイン「その気持ちは嘘じゃない」
ピオノノ・ダイン「でも・・・」
ピオノノ・ダイン「もし、その記憶がサフィにとって 苦しいものだったら・・・」
サフィ「・・・ありがと、ピオ」
サフィ「心配してくれてるんですよね」
サフィ「けど、あたしはだいじょうぶ」
サフィ「だって」
サフィ「ピオとアストリッドがいますもん」
サフィ「もし、すごくつらくて悲しくなっても」
サフィ「1人じゃなければ、きっとだいじょうぶ」
サフィ「だからピオも すごくつらくて悲しくなったら」
サフィ「あたしたちに頼ってくださいね!」
ピオノノ・ダイン(・・・そうか)
ピオノノ・ダイン(ボクは・・・ずっと・・・)
サフィ「ピオ?」
サフィ「泣いてるのですか?」
「ち・・・違うっ!」
「砂が目に入っただけだ・・・」

〇城の廊下

〇貴族の応接間
執事長フランク・カッター「失礼いたします」
執事長フランク・カッター「ジュリアン様がいらしていたのですか?」
クレメント・ダイン「・・・ああ」
執事長フランク・カッター「僭越ながら、旦那様」
執事長フランク・カッター「ジュリアン様にはご留意くださいませ」
執事長フランク・カッター「ピオノノ様について話すジュリアン様は ・・・どこか恐ろしいのです」
執事長フランク・カッター「ジュリアン様といい殿下といい」
執事長フランク・カッター「ピオノノ様は魔力の代わりに 妙な引力をお持ちなのでしょうか」
執事長フランク・カッター「レディ・フローレスは ベルクラインを追放されていましたな」
執事長フランク・カッター「秘密裏に依頼する必要があったとは言え」
執事長フランク・カッター「ダイン家の養子となるスペルロイド製造は いささか荷が重かったかもしれません」
執事長フランク・カッター「17年前のことを申しても 詮なきことではございますが」
クレメント・ダイン「がはっ・・・!」

〇立派な洋館
執事長フランク・カッター「誰かおらぬか! だ、旦那様が・・・!」

〇海辺
サフィ「月、キレイですね」
ピオノノ・ダイン「う、うん」
サフィ「――ピオは」
サフィ「この海の向こうから来たんですよね」
サフィ「いつか、戻っちゃうんですよね」
ピオノノ・ダイン「ここでサフィや師匠と暮らしてれば」
ピオノノ・ダイン「ペンリスへ戻るより きっと、ずっと穏やかで安全だ」
ピオノノ・ダイン「・・・けど」
ピオノノ・ダイン「濡れ衣を着せられたままじゃいられない」
ピオノノ・ダイン「弟の力も借りて、裁判で無実を証明する」
ピオノノ・ダイン「その後は──」
ピオノノ・ダイン「サフィの記憶を取り戻すのに協力するよ」
ピオノノ・ダイン「お母さんと先生に会いに行こう」
サフィ「・・・けど」
ピオノノ・ダイン「1人だと恐くても 2人ならだいじょうぶ」
ピオノノ・ダイン「だろ?」
ピオノノ・ダイン「ダイン家には戻らないつもりだ」
ピオノノ・ダイン「弟の邪魔にはなりたくないし」
サフィ「でも、ほんとにいいんですか」
サフィ「あたし、ピオの力になれてないのに」
サフィ「・・・アストリッドと違って」
ピオノノ・ダイン「そんなことない」
ピオノノ・ダイン「師匠が与えてくれるのは 魔術や住居だけじゃない」
ピオノノ・ダイン「ボクは見たいものだけ見て 信じたいものだけ信じてた」
ピオノノ・ダイン「でも、それじゃダメだ」
ピオノノ・ダイン「師匠がいなければ、視野が狭いままだった」
ピオノノ・ダイン「感謝してもしきれない」
ピオノノ・ダイン「けど、サフィだって ボクの力になってくれてる」
サフィ「えっと、家事とか?」
ピオノノ・ダイン「おいしい料理、清潔な衣服、暖かいベッド」
ピオノノ・ダイン「それも、もちろん大事だけど」
ピオノノ・ダイン「全部揃っても、心が安まらないときもある」
サフィ「それって、ピオのお家での?」

〇城の客室
ピオノノ・ダイン「扉をノックされるたび 反射的に身構えたし」

〇城の廊下
ピオノノ・ダイン「使用人とすれ違ったときは 陰口を叩かれることに怯え」

〇貴族の応接間
ピオノノ・ダイン「父や執事長に声をかけられれば なにを言われるのかと恐かった」

〇海辺
ピオノノ・ダイン「あのとき、少しも休まるときがなかった」
ピオノノ・ダイン「だからサフィは・・・」
ピオノノ・ダイン「一番大切なことをしてくれてるよ」
サフィ「それって?」
ピオノノ・ダイン「・・・内緒だ」
サフィ「いじわるしないで教えてください!」
ピオノノ・ダイン「今度な」
ピオノノ・ダイン「さ、もう戻ろう」
ピオノノ・ダイン「師匠が心配してるかもしれないし」
サフィ「あっ、そっか」
サフィ「1人で行動するなって言われてたのに」
サフィ「アストリッド、怒ってないといいですけど」
ピオノノ・ダイン「ボクも一緒に謝るよ」
ピオノノ・ダイン「でも、これからは気をつけてくれ」
ピオノノ・ダイン「サフィが傷つくようなことがあれば ボクはきっと平常心ではいられない」
ピオノノ・ダイン「魔術を使うのに重要なのは 精神力、平常心、想像力」
ピオノノ・ダイン「師匠がそう教えてくれた」
ピオノノ・ダイン「ボクのためにも 平常心を乱させないでくれよ?」
サフィ「はっ、はい・・・」
ピオノノ・ダイン(ボクが傷つけられたことに対して 本気で怒り、悲しんでくれる)
ピオノノ・ダイン(そんな人、今までいなかった)
ピオノノ・ダイン(きっとサフィは 誰にでもそうなんだろうけど)
ピオノノ・ダイン(それでも、うれしかった)
ピオノノ・ダイン(・・・なんて 恥ずかしくて言えないけど)
サフィ「ピオ?」
ピオノノ・ダイン「いや、なんでもない」
ピオノノ・ダイン「さ、帰ろう!」

〇谷
フローレス・リング「サントエレン行きの船が出るのは ワーズワースの港湾都市ライダル」
フローレス・リング「定期船の運航は月に3回」
フローレス・リング「6日後の出航までにライダルへ行くぞ」
フローレス・リング「サフィ、どうか無事でいて」
Dr.インタリオ(サフィ・・・)

〇田舎の病院の病室
サフィレット・リング「先生! 今日はお出かけできるんだよね?」
サフィレット・リング「海?」
Dr.インタリオ「もう少し元気になったらな」
Dr.インタリオ「近くの公園でピクニックをしよう」
Dr.インタリオ「サフィほどうまくは作れなかったが サンドイッチとスープもあるぞ」
サフィレット・リング「楽しみ!」
Dr.インタリオ「この時期はポーチュラカが・・・」
看護師「先生、お客様がいらしてます」
Dr.インタリオ「少し出てくる 準備してなさい」
サフィレット・リング「はーい」

〇田舎の病院の病室
サフィレット・リング「曇ってきちゃった」
サフィレット・リング「先生、まだかなあ」
サフィレット・リング「あれ?」
サフィレット・リング「なんだろ・・・身体が」
Dr.インタリオ「サフィ、おまたせ」
Dr.インタリオ「サフィ?」
Dr.インタリオ「サフィ!」

〇田舎の病院の病室
サフィレット・リング「このまま死んじゃうのかな・・・」
サフィレット・リング「海、行きたかったな・・・」
Dr.インタリオ「諦めるな、サフィ!」
Dr.インタリオ「諦めなければ夢は叶う だから・・・!」
サフィレット・リング「わかるよ」
サフィレット・リング「自分の身体のことだもん」
サフィレット・リング「ね、先生」
サフィレット・リング「これ、棺に入れて」
サフィレット・リング「海の夢を見ながら眠りたいの」
サフィレット・リング「それからこれ、お母さんに」
Dr.インタリオ「行こう」
Dr.インタリオ「海、見に行こう」
Dr.インタリオ「本物の海を見れば きっと元気になるさ」

〇山並み
「先生、眠い・・・」
「もう少しだけ、頑張ってくれ!」
「・・・あ」
「波の音・・・」

〇海辺
サフィレット・リング「・・・キレイ」
サフィレット・リング「ずっと見たかったの」
サフィレット・リング「ありがと、先生」
サフィレット・リング「ちょっと疲れちゃった」
サフィレット・リング「もう寝るね・・・」
Dr.インタリオ「サフィ・・・!」

〇田舎の病院の病室
フローレス・リング「よくも・・・よくもサフィを」
フローレス・リング「おまえのせいでサフィが死んだ!」
Dr.インタリオ「・・・申し訳ありません」
フローレス・リング「サフィを返せ!」
フローレス・リング「返してよ・・・」

〇谷
Dr.インタリオ(わかっている)
Dr.インタリオ(1日だって忘れたことはない)
Dr.インタリオ(サフィが死んだのも フローレスが狂ったのも)
Dr.インタリオ(おれのせいだ・・・おれが・・・)
フローレス・リング「なにをしている」
Dr.インタリオ「・・・いや」
Dr.インタリオ「行こう」
Dr.インタリオ「後戻りしようなど、今さら言わないさ」

次のエピソード:└chapter09.5 魔王の講義

コメント

  • ピオくんとサフィちゃん、この2人の会話は見ていて心が洗われますね😊
    そして、各話少しずつ明らかにされる事実や登場人物の関係性に、毎回興味をそそられています✨ 物語の全貌は果たして…🤔

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