怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード23(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇海辺
  次の瞬間、俺は足を引っ張られて海に引きずりこまれていた。
  ギリギリのところで浮き輪の紐を掴み、なんとか抵抗しようとする。
  しかし、足を掴む力が強すぎる。
  浮き輪ごと引っ張られそうなほどの力だ。
  もがくことでさらに酸素を消費し、手に力が入らなくなっていく。
  ついに限界が来て、俺は浮き輪の紐から手を放してしまった。
  身体が一気に海底へと誘われる。

〇黒
  ぼんやりと光る月明かりが遠のいていき、それにともなって意識も薄れていった。
  ギリギリのところで見えたのは見覚えのある狐面。
  こちらへ向かってくるそれを確認した俺は、フッと意識を手放した。

〇海辺
茶村和成「ゴホッ、ゲホッ!」
  咳き込むように意識が浮上して、俺は目を開ける。
  目と鼻の先には、薬師寺の顔があった。
茶村和成「うわああっ!?」
  とっさに薬師寺をはねのけて起き上がる。
  周りを見ると、浜の上にいるようだ。
薬師寺廉太郎「いてて・・・だから言ったでしょ?」
茶村和成「・・・ごめん」
  俺はまた薬師寺に助けられたのか。
  情けない気持ちで黙り込むと、薬師寺はいつものように笑った。
薬師寺廉太郎「ひゃひゃっ、あそこで行くからこそ俺の茶村なんだけどね」
茶村和成「なんだよそれ・・・」
茶村和成「・・・まあ、ありがとな」
薬師寺廉太郎「うん。ま、おかけでいい思いもできたし」
  薬師寺は指先で唇をなぞる。
  いい思い・・・? 何を・・・。
  そこまで考えてハッとした。
  目覚めたときあんなにも距離が近かったのは、まさか・・・!
茶村和成「お、おま・・・!」
薬師寺廉太郎「分かってるって。 これはノーカウントでしょ?」
薬師寺廉太郎「まあいずれは本物をもらうことにするよ」
  えへへ、と薬師寺が笑う。
  俺は勢いよく息を吸い込んだ。
茶村和成「調子に乗るな!!」
  静かな浜辺に鈍い音が響き渡った。
  さよなら、俺のファーストキス・・・。

〇ホテルの受付
  鉄拳を薬師寺にお見舞いしたあと、俺たちはホテルへと戻ってきた。
  ふたりともずぶ濡れの状態だったので、着替えを取って大浴場へと向かう。

〇旅館の和室
  夜の海に沈んで冷たくなった身体を温めて部屋に戻ると、由比とスワが起きていた。
  どうやら着替えを取りに戻ったときに起こしてしまったらしい。
諏訪原亨輔「こんな夜中にどうしたんだ?」
由比隼人「しかもふたりだけで・・・ハッ!」
由比隼人「も、もしかして・・・?」
茶村和成「違う!! ・・・別に隠すことでもないよな?」
薬師寺廉太郎「うん? まあ、そうだねぇ」
  俺はさっき起こった出来事について由比とスワに話した。
  ふたりとも相槌(あいづち)を打ちながら聞いている。特に由比は興味津々なようだ。
  俺の話が終わると、「よし!」と拳を握りしめて由比が立ち上がる。
由比隼人「じゃあ明日はその怪異についての情報収集しようぜ!」
茶村和成「お前な・・・」
由比隼人「だってこのまま放っておいたら被害者が出るかもしれねえよ?」
由比隼人「なんなら・・・今までにもいたかもだし」
茶村和成「・・・・・・」
薬師寺廉太郎「・・・決まりだねぇ」

〇旅館の和室
  とりあえす、明日に備えて今日はもう一度寝ることにする。
  目を閉じて浮かび上がるのは、暗闇の中で怪しく光る二つの瞳。
  俺はそれを振り払うかのように布団に潜り込み、だんだんと眠りに落ちていった。

〇ホテルの受付
  次の日。朝食を食べ終え、俺たちは情報収集を開始した。
  まずはホテルのフロントに話を聞いてみることにする。
由比隼人「すみませーん。 聞きたいことがあるんですけど」
フロントマン「はい、どうかされました?」
  40代くらいの優しそうな男性だ。
  人当たりの良い笑顔が、俺たちに向けられる。
由比隼人「ここらへんの海ってよく人が来るんですか?」
フロントマン「ええ、毎年多くの観光客の方がいらっしゃいますよ」
由比隼人「へぇ〜、じゃあやっぱ、事故とか結構起きたりするんですかね?」
  そう尋ねた瞬間、フロントマンの表情が明らかに硬くなった。
フロントマン「・・・いえ、そのようなことはございません」
茶村和成「まったくないんですか?」
フロントマン「ございません」
茶村和成「溺れたり、沖に流されたり、あるいは何かに襲われ・・・」
  ガンッ!!
茶村和成「っ・・・」
  俺の言葉を遮(さえぎ)るように、フロントマンは手元の資料をカウンターの上に叩きつけた。
  そして、先ほどの笑顔の面影もない虚ろな瞳で俺たちを見つめる。
フロントマン「失礼ですが、業務がありますので」
茶村和成「・・・すみません、ありがとうございました」
フロントマン「いいえ。本日もお楽しみくださいね」
  そう言ったフロントマンは微笑んでいたが、目は全く笑っていなかった。
  フロントをあとにし、俺たちはお互いの様子を窺うように目を合わせる。
薬師寺廉太郎「ひゃひゃっ・・・ちょっと不気味だったねえ」
茶村和成「・・・・・・」
由比隼人「こ、怖かった〜・・・」
諏訪原亨輔「もう少し、この辺で話を聞いてみた方がいいんじゃないか?」
茶村和成「ああ・・・」
  ホテルを出て、俺たちは地元の人に聞き込みをすることにする。

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